時事通信社事件(1992年6月23日の最高裁判所判決)
本案件の影響と注意点:
前記事(2/3)では、時事通信社事件の最高裁判決から
「事前調整のない突発的な長期有給に対し、
会社側の時季変更権の行使が適法と認められた理由」を解説しました。
今回は、この判例が現在の実務に与える具体的な影響と、
企業がトラブルを防ぐために守るべき運用の注意点をまとめました。
本案件が実務に与える影響
この最高裁判決は、
企業にとって「長期休暇の申請を無条件で受け入れなくてもよいケースがある」
という強力な盾となりました。しかし、それは
「どんな長期休暇でも会社が拒否できる」という意味ではありません。
実務に与えた最大の影響は、
「労働者の権利(有給取得)」と
「会社の経営権(時季変更権)」のバランスの取り方を示した点にあります。
「突発的な長期申請」への対抗措置が明確になった
業務の引き継ぎや代替要員の確保を無視して、
いきなり「明日から1ヶ月休みます」といった極端な申請がなされた場合、
会社は業務支障の予測に基づいて時季変更権を適法に行使できる可能性が高くなった
と言えます。
「会社の事前の配慮」がセットで評価されるようになった
単に検討も理由もなく「ダメだ」と突っぱねるのではなく、
「時期をずらしてほしい」
「2回に分割して取得してはどうか」といった
会社側の譲歩や代替案の提示(配慮)があるかどうかが、
裁判で適法性を分ける基準となりました。
企業が守るべき運用の注意点
この判例を誤解して、
安易に「長期の有給は拒否できる」と運用すると、
「時季変更権の濫用」として違法(損害賠償請求の対象)になるリスクがあります。
有給申請に関しては、以下の3点に注意してみてはどうでしょう。
1. 「何日前までの申請」という社内ルール(就業規則)を整備する
判例で会社側が勝訴できたのは、労働者が事前の調整を一切しなかったからです。
トラブルを防ぐためには、就業規則に
「〇日以上の長期にわたる有給休暇を取得する場合は、
業務の引き継ぎ等のため、〇日前までに所属長に届け出て調整を行うこと」といった、
事前相談のルールを明確に定めておくことが、重要な予防策として検討されます。
2. 「事前の代替要員(カバー体制)の確保努力」
1ヶ月のような超長期であれば「代替要員の確保は不可能」と予測しやすいですが、
これが「1週間(5〜6日間)」程度の休暇であれば話は変わります。
会社側が
・普段から他の社員に業務を共有させる努力(マルチタスク化)していたか?
・一時的な派遣社員の補填などを検討したか?
といった「会社としてのカバー努力」が不十分な場合は、
時季変更権の行使が認められない と判断される可能性が高いです。
3. 一方的な却下ではなく「誠実な話し合い」の徹底
実務で最も重要なのは、
申請を拒否することではなく「時季を調整すること」です。
「今のプロジェクトが一段落する来月なら可能か」
「前半と後半で2回に分ければ業務が回るがどうか」など、
労働者の希望を汲み取りながら誠実に話し合ったという
「プロセスの事実」は必ず残してください。
話し合ったけど合意できない ことはあるでしょう。
合意できそうにないから と思っても、話し合いを避けていい理由にはなりません。
※ 本記事は一般的な判例の紹介および解説を目的としたものであり、個別の労務案件に対する法的助言を構成するものではありません。
具体的な事案への適用にあたっては、当事務所に直接ご依頼くださるか(有料)、ご自身で弁護士や社会保険労務士などの専門家へ個別にご相談ください。
1か月連続の有給取得は認められるか 3/3
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